アラーキー前史 1970年:荒木経惟のゼロックス写真帖
ゼロックス写真帖とは荒木経惟がまだ電通の会社員として働いていた頃、社内にあったゼロックスのコピー機を使って作った写真帖のこと。正式には『荒木経惟写真帖』という。私家版ではあるが、荒木にとっての実質的なデビュー作であり、彼が「アラーキー」と呼ばれる以前のいわゆる駆け出し時代の作品集である。全25巻の予定だったが、内3巻は未刊、加えて番外篇と付録2点を含め、全23巻(付録含め全25点)が刊行された。早く撮って早く出したいという荒木の意向で、造本は黒い紙の表紙に赤糸の和綴じの手作り製本で統一し、仕上がったらすぐに色々な人に勝手に送りつけていたらしい。









内容はそれぞれ判型やページ数が異なり、かなりのバリエーションがある。各号限定70部を発行。製作スタッフに名を連ねる荒木和雄は実弟、青木陽子は後の妻・荒木陽子(1947-1990)である。主に陽子がコピーをし、綴じを和雄が手がけていたそうである。ちなみにこの和本のデザインは、荒木が陽子と京都に旅行した際に訪れた古本屋で購入した仏教書『往生要集(985年)』がアイデアソースとなっている。


とにかく薄くて粗いゼロックス写真帖だが、一冊一冊を丁寧に見ていくと、のちの写真家アラーキーを形成するあらゆる表現方法がここで実験されている。

<ポートレイト&クローズアップ>
<転用>
<ヌード>
<イラストレーション&コラージュ>
<アプロプリエーション>
<オマージュ>
<詩集>
<ソラリゼーション>
<私写真>
<セルフ・ドキュメンタリー>
<広告>
<コンセプチュアル・フォト>
<荒木経惟写真帖 全巻詳細リスト>
<参考文献>



<ポートレイト&クローズアップ>写真家アラーキーを語る上で欠かせないのはやはり魅力的な人と顔との出会い、これに尽きる。















<転用>プリント一枚を貼り付けた第4号。わざと変色させている。当時の日本ではプリントとはすなわち印刷原稿だったはずだが、荒木はそれをそのまま本文として挟み込んでいる。



<ヌード>ご存知アラーキーといえば裸、裸といえばアラーキー。















<イラストレーション&コラージュ>
右のキャラクターはのちの『童貞ダッチョ君』に収録されている。













<アプロプリエーション>左から、立木義浩写真集『イヴたち』、三億円事件の犯人像の切り抜き、内藤正敏の展覧会など、荒木はあらゆる媒体を自身の作品として盗用した。




<オマージュ>アニエス・ヴァルダ(Agnès Varda 1928-2019)の「5時から7時までのクレオ」に捧げる作品。




<詩集>旅館の便箋に書いた詩。陽子との共作。写真ではなく言葉による表現方法。




<ソラリゼーション>反復複写(コピーにコピーを重ねていく)や偶然の産物によって生まれた複写効果を荒木は当時気に入っていた。




<私写真>
女性とのプライベートな関係をありのままに撮るスタイルがこの頃からもうすでに荒木の中で芽生えていたことが分かる。のちの『センチメンタルな旅』へと至る"私写真"の源泉が湧き出ている。




<セルフ・ドキュメンタリー>自分の展示を自分で撮る。これだけで一冊の写真帖にしてしまった。













<広告>
仕事としての写真もしっかりアピール。
自身が電通の仕事として関わった日産のスカイラインの広告写真をカレンダーに。











<コンセプチュアル・フォト>
第3号は「風景」にも関わらずひたすらテレビの画面を撮影している。おそらくネガのままスキャンか。





<荒木経惟写真帖 全巻詳細リスト>
1:顔70     
2:矢口栄三郎
3:カルメン・マリーの真相 *3月18日発刊予定。のちに未刊。
4:都はるみ(仮名)予告編
5:アダム & イヴ
6:すてきな新婚旅行
7:東京はエロス
8:これが写真展だ
9:7時から7時7分までのパトラ
10:夏休み *付録:デロン君ガンバル
11:内藤正敏見世物看板写真展<女ターザン三人娘>
12:残暑お見舞 キッチンラーメン展 2
13:風景
14:続・風景
15:万博
16:すなっくDOMONEってドコドコドコ?
17:あー日本 改め おー日本
18:サマーバカンス神津島 *モデル嬢結婚のため中止
19:詩集
20:恋文帖
21:散歩の時間
22:西熱海ブルース *付録:便所用愛のカレンダー
23:歌手たち *印画紙4811枚シリーズに変更
24:日本人70
25:夢のマイホーム
番外篇:荒木長太郎二代目襲名披露


<参考文献>
ゼロックス写真帖に関する記述は以下の三冊の書籍を参考にしています。







p.296-301 荒木経惟、自作を語る






p.136-144 ゼロックス写真帖












p.147-148 付 アラーキズム全史 1940-82